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東京高等裁判所 平成7年(ネ)2658号 判決 1996年3月27日

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

理由

【事実及び理由】

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1 原判決を取り消す。

2 被控訴人は、控訴人に対し、金二五八五万二二一七円及びこれに対する平成四年七月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

4 仮執行宣言

二  被控訴人

主文一項と同旨

第二  事案の概要及び証拠関係

本件事案の概要は、原判決の「事実及び理由」中の「第二 事案の概要」に記載のとおりであり、証拠の関係は、原審記録中の証拠に関する目録記載のとおりであるから、これらをここに引用する。

第三  争点に対する判断

当裁判所も、控訴人の本訴請求は、失当としてこれを棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり付加するほかは、原判決の「事実及び理由」中の「第三 争点に対する判断」に記載の理由説示と同一であるからこれをここに引用する。

原判決九枚目表一行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「なお、控訴人は、平成三年三月二九日以降労務の提供をしなかったのは、被控訴人が控訴人に対し出勤しなくてもよいと通告して労務の受領を拒否したからであるなどと主張する。

しかしながら、前記認定のとおり、平成三年三月二九日に被控訴人が控訴人に対し手渡した書簡(甲第三号証、乙第一号証の一)の中には、控訴人の解雇は同年六月三〇日に効力を生ずるが、それまでの間、控訴人は、直ちに新たな職を探し他に職を得ることも自由であり、同日正午以降被控訴人の事務所へ出勤しなくてもよい旨の記載がなされていたのであり、その趣旨は、控訴人が右解雇に同意する場合には以後出勤しなくてもよいとの申出をしたにすぎないものであって、解雇に異議がある場合でも出勤を免除するとまで述べているものではないと解される。したがって、右書簡を受領した控訴人が、直ちに私物を職場から持ち出し、以後出勤しなくなったときは、前記認定のその他の事情と併せて、控訴人が被控訴人による解雇の通告を受け入れ、これに同意したものと認めることもできるというべきである。また、同年四月一日から同年六月三〇日までの給与、賞与等の受領についても同様であり、前記の書簡には、解雇が同年六月三〇日に効力を生ずることを前提として、その場合には、被控訴人は、控訴人に対し、それまでの間、控訴人が出勤しなくても従前どおりの給与、賞与等を支払う旨の記載があるのであるから、控訴人は、解雇を争い被控訴人の右申出を拒絶するのであれば、少なくとも、給与等を受領しても解雇に同意する趣旨ではないとの意思表示をした上で、その受領をすべきであったのであり、何らの留保もせずに、勤務をしないで給与等を受領したときは、これをもって、控訴人が被控訴人の右申出を受け入れたことを推認する一つの事情とみなされても止むを得ないものというべきである。」

第四  結論

よって、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用の負担について民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 丹宗朝子 裁判官 市川頼明 裁判官 北沢章功)

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